ATTENTION!
これは「APヘタリア」のBLカップリングの二次創作です。
以下の要素が含まれます。
・英 × 仏 のカップリング要素
・現代パロ
・人名呼び
ご了承いただける方のみ次へお進みくださいませ。
腐れ縁のアイツと付き合い始めたのは何年前からだったか。
久しぶりの休み。さわやかな風のふくカフェのテラス席で、一人カフェオレを飲みながらのんびり読書。そんな絵にかいたような穏やかな午後、俺の頭に一人の太眉の自称紳士の顔が浮かんだ。
たしか、告白はアイツからだったと思う。ただムードもへったくれもなくて、二人で呑みに行く道中で、
『なぁフランシス』
『んー?』
『好きだ』
みたいな、そんな感じの流れだったはずだ。やつはすぐそっぽを向いたけど、隠せなかった真っ赤な耳が全てを物語っていて、こっちまで気恥ずかしくなったのを覚えてる。
アイツは今もそうだけど、ちょっとめんどくさいだけで悪いやつじゃない。なんとなく「俺に気があるかなー」とは百年くらい前から思ってたので、驚くことなく俺はその場で付き合うことにOKした。これにはむしろアイツの方が驚いていたっけ。アイツはかなり感情が表に出るタイプなのだが、どうもその自覚はないらしい。隠し通せてると思ってる辺りが、アイツらしいといえばそうなんだけど。
だがやつでも、外交の場ではとにかくパーフェクトだ。笑顔の面をつけて、外面を飾りまくる。そのときばかりは流石の俺もアイツの考えてることがわからない。本当にたいしたやつだ。
ちょっと嬉しいのは、アイツは俺のまえでは外面を飾ることはない。まぁ呑んだくれた後はもうちょっと飾ってくれても良いが、つまりはそれって、俺の前ではリラックスしてくれてるってことだろう? これは密かな、俺の自慢だ。
「………………。」
カフェオレをひとくち。読むわけでもなく本に目を落とす。
「………………。」
…………自慢だとか思ってたのが、大体2ヶ月前まで。
2ヶ月前の蒸し暑い日の夜。アイツは俺に1つの宝石をプレゼントしてくれた。
『これフランシスに』
それは真っ赤なルビーのついたブローチだった。
男性も付けれそうなデザインのブローチで、きっと考えて選んでくれたのだろうと素直に嬉しかった。……喜んでお礼を言って、アイツの顔を見るまでは。
アイツの顔は、二人きりのときでは初めてみる、能面のような張り付いた笑顔だった。
『フランシスにならそれ似合うと思ってさ』
言葉も急に薄っぺらく感じた。なんで?どうして?嫌われた?
与えられたプレゼントと態度の差に不安を覚えた。でも告げれなくて、今にいたる。
今日までに、やつは俺に他にも宝石を寄越した。
はじめのルビーに続いて、エメラルドのネックレス、ガーネットのネクタイピン、アメジストのカフス、ルビーのピアス。この2ヶ月、お互いに忙しくて二人きりで会えたのは五回だけ。つまり会うたびに宝石をもらっていたことになる。
そのうちに、その高価なプレゼントが、アイツからの別れる前の手切れ金のように思えてきた。もともと貢ぐ癖のあるやつならまだしも、アイツはそんなタイプじゃない。バラの花は祝い事のときなどにあわせてよく送ってくるが、それは家で懇切丁寧に育てているもので、宝石の贈り物とは一線を画する。だからなおさら、その考えは妥当なように感じた。
幸いにも今までの五回のデートでは、別れ話は出ていない。
「いつから……」
思わず声に出た。いつから、こんなにもアイツのことを恋い焦がれるようになったんだろう。付き合い始めたときからアイツのことは好きだったけど、ここまでどっぷり浸かってはいなかったはずだ。
というか、こういう国という立場を背負っている以上、未来永劫この関係が続く訳ではないことは知っていた。だから『適度に』付き合おうと、自分は決めていたのに。
深い溜め息が出た。幸せが逃げるかもなぁとかぼんやり考えて、キュッと口を閉じた。今日幸せに逃げられてはたまらない。なんてったって、今晩はアイツとの六回目のデートなのだ。約束の時間は午後7時。現在時刻は大体午後2時。
別れ話を切り出される覚悟もしつつ、それでも捨てきれない思いを苦い気持ちで抱いて、俺は手をあげた。気が滅入ってしまった。このあとはショッピングでもするとしよう。
「ウェイター、会計を頼む」
「ウィ、ムッシュー」
答えたウェイターが少しだけアイツに似ていて、ほんのちょっとだけ胸が痛かった。
さて、時計の表示は19:04。約束のレストラン。
アイツはもう先に座っていた。
「ごめんアーサー遅くなった。電車の事故があってさ。待たせたね」
「…………あぁ」
この時点で妙だと思った。いつもなら、普段のアーサーなら、遅せぇよ馬鹿とか連絡くらいよこせとか言うはずだ。
予感は、半分くらいあたった。
「……まぁ、おまえに怪我がないんならよかった。座れよ」
まただ。また、あの張り付いた笑顔だ。だけど、その瞳の奥に少しだけ不安な光が揺れたのは気のせいだろうか。
とりあえずうながされるまま席についた。
「……アーサー、あのさ」
話しかけてアーサーの顔を見て、はっとした。
「ん?」
アーサーの顔は普段のリラックスした表情だった。なんなんだ、わけがわからない。この分かりやすい表情の差はなんだというんだ。
「フランシス?」
「え? あ、あぁ聞いてよ!このまえギルちゃんとトーニョがね…………」
ぬぐいきれない疑問を抱えつつも、俺とアーサーはたわいもない話に花を咲かせた。前菜、スープ、魚料理、グラニテ、肉料理、とフランス料理のフルコースに舌包みをうちながら、何事もないまま着々と時間は過ぎて行く。こうして二人で食事をとるのもかなり久しぶりだったため、心からこの穏やかな時間が最後まで続くことを願った。
だがそうはいかないのが世の常で、大体料理を食べに行けば、それはデザート後というのが定石である。
「フランシス」
きた。
「なーに?」
アーサーの顔が能面にすり変わった。
「あのな……これ。」
そういってスッと差し出したのは、小さなプレゼント包みだった。
「おまえに。」
「…………ありがとう」
微妙な心境で受けとる。それをテーブルの脇にちょうど置いたとき、アーサーが口を開いた。
「……あのなフランシス。俺、ずっと考えてたんだ」
「……!」
この展開は初めてだった。胸がざわつく。
「永いときを一緒に生きるって、きっと辛いことのほうが多いよな。」
「……えっ……」
「俺達は国だ。上司が変われば俺達の向く先も変わるし、ずっと一緒にいられるわけじゃない」
「…………」
「移ろいやすい、ゆっくり流れる川みたいなもんだ。川は流れるうちに別れたり、一緒になったり。結局は海にわたるだろうが、それに至るまでは経過が沢山あるんだ。」
わかってる。
「俺達の気持ちじゃないんだ。もうそればっかりはしょうがないこともある。」
わかってるよ。
「だから……」
アーサーは飾ったような顔をして微笑んだ。やめろ、そんな顔で、そんなこと言うな。
「フランシス」
もう、限界だ。
「わかった。わかったよアーサー、もういい。」
「えっ」
「別れたいんなら回りくどいこと言わないで、そのまま言ってくれたほうが楽だよ、お互いに」
「はぁ? おまえなんでそんな話に」
「だから、別れたいんだろ、俺と。」
「なっ、ちがっ……ておまえ」
アーサーが息をのむのがわかった。
「なんで泣いて……」
涙が出た。悲しいとか、辛いとか、そんな感情がぜんぶぐちゃぐちゃになって、理由なんてわかるはずもなかった。
本当は今すぐ立ち上がって、ここを離れてしまいたかったけど、生憎立ち上がる気力もない。涙に全部吸いとられたみたいだ。
女々しい自分にも腹が立つし、アーサーにも腹が立った。八つ当たりなのは百も承知だが、もうそれすらどうでもよかった。とにかくどうでもよかった。
「…………」
アーサーはなにも言わなかった。それがかえって泣けた。
「……フランシス、手出せ」
やっと口を開いたかと思えば、そんなことを言った。
「…………」
そっぽをむいたまま、黙って手を突きだす。できるだけ乱暴に。
「……じっとしとけよ」
アーサーが俺の手をそっもとる。がさごそ、ペリペリ、かぱっ。様々な音が声のあとに続いた。いったい何をしているのか。
すると、指になにか違和感を感じた。
「……?」
「いいぞ。こっち向け」
振り向いてやらなくてもよかったが、指の違和感を確かめたいという気持ちが勝った。おそるおそる、左手に目をやる。
「……え」
目を見張った。
このときを待っていたかのように、室内の照明の光をうけキラキラと輝くそれは、見紛うことなく、
「…………ダイヤモンド」
左手の薬指にはめられたリングにすっぽりとおさまっているそれは、どうみたってダイヤの指輪だった。
別の指にはめられていたら、これまでと同じように手切れ金と感じていたかもしれない。だがこの位置は。まさかこの意味を知らないアーサーではあるまい。左手の薬指の意味を。
混乱している俺に、アーサーが言った。もう、外面のアーサーではなかった。
「フランシス、俺が最初に渡した宝石はなんだった?」
「……ルビー」
「二つ目は?」
「エメラルド」
「三つ目」
「ガーネット。四つ目はアメジスト」
「あぁそうだ。五つ目はもう一回ルビーだったな。そして今回は、ダイヤモンドだ。なにか思い当たることってないか?」
考える。だがまったく見当がつかない。
怪訝な顔をする俺に、アーサーはしょうがないというようにため息をついた。
「覚えてないか? ……宝石の、頭文字を取るんだよ」
「頭文字……」
ルビーのR、エメラルドのE、ガーネットのG、アメジストのA、ルビーのR、ダイヤモンドのD。繋げるとREGARD。
英語だ。意味は、
「…………Regard、敬愛……」
アーサーを見た。俺の手を握ったまま、机に視線を落としていた。
「……俺達は、国で。しょってるものが大きい。気持ちだって、国の情勢に左右されちまう。」
アーサーが顔をあげる。それは、いつものように、自然で、暖かい笑顔のアーサーだった。
「だから、だからこそ、この指輪で、繋がっていたい。俺達は確かに通じあっているんだっていう、証明だ。」
よくみれば、アーサーの左手薬指にも同じ指輪がはめてあった。今、気付いた。
「おまえは、どうせ一時だけでしょっていうかもしれないが、俺はそうは思わない。今だけじゃなくて、これからずっと、俺はおまえと一緒にいたいんだ。」
呆然としてアーサーの顔を見つめ続けると、やがてアーサーはみるみるうちに赤くなっていった。
「…………それ、プロポーズ?」
尋ねるとさらに赤くなる。
「ひょっとして、今まで外面被ってたのも、これを俺に悟らせないため?」
「……う、うるせぇ!俺だって必死だったんだよ‼ この手のやつって中世に流行ったやつだからおまえも知ってるし、でもばれたら面白くないから、出来るだけなに考えてるかわからないように渡して…………」
「…………ふっ」
「何がおかしいんだよ!」
「いや、はは、そうか」
そうだ。コイツは昔から、分かりやすいやつだったじゃないか。
「ふふ、ははっ、はっ……」
また目尻に熱いものを感じた。勘違いしていたのも、アーサーの外面の理由に気付けなかったのも、なにもかもが馬鹿らしくて、でも不思議と心は幸せで満たされていた。暖かかった。
「……お、おい……」
再び泣き出した俺に狼狽えるアーサーに、ひらひらと手をふってみせる。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと嬉しかっただけだから。勘違いしてて、ごめんね」
まだ涙で潤む両目で左手を見た。透き通るように美しいダイヤモンドが光っている。
「……アーサー」
「お?」
「凄く嬉しい。ありがとう」
「お、おぉ」
「本当に、ありがとう…………」
幸せだ。本当に、心から。
国だとか、背負うものだとか。それを全部もってしても、コイツと一緒がいい。そんなの、俺だって同じだ。
愛し、愛される。こんな幸せなことが、他にあるだろうか。きっと、悲しいことも辛いことも、アーサーとなら乗り越えられる。
薬指にキスをしてから、俺はアーサーを何をするでもなく見た。少し驚いたように瞬きをしてから、アーサーが微笑む。
その顔に、もう外面なんてなかった。あるとするならば。
「愛してるよ、アーサー」
そう言って俺も笑った。
fin